清宮書房

人生の大半を過ごしたとも言える昭和を自分なりに再検討し、今を見てみようとする試みです。

イアン・ブレマー「Gゼロ」後の世界、三谷太一郎著「戦後民主主義をどう生きるか」、並びに「高坂正尭と戦後日本」を読んで見て

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イアン・ブレマー「Gゼロ」後の世界、三谷太一郎著「戦後民主主義をどう生きるか」、並びに「高坂正尭と戦後日本」を読んで見て

 

序章 日本を取り巻く現国際状況

 

 イスラム国の出現、テロの続出に加え、数々の民主義国家が専制国家へ。英国がEUを離脱し、ジョンソン首相に交代。イタリア憲法改正反対での首相交替、加えて米国内のみならず欧米との亀裂をもたらしたアメリカ大統領トランプと退場、そしてバイデン大統領の登場。フランス、ドイツの首脳交代の可能性等々と欧州、アメリカが近来にない激しい状況変化に遭遇しています。そのような状況下、この6月13日、主要7ヶ国首脳会議(G7サミット)が70項目に亘る共同宣言を出しました。その宣言には1975年のランブエイ以来、サミットの歴史で初めて共同宣言に「台湾海峡に平和と安定」を記しました。海上、空、宇宙、そしてサイバー空間に軍事力を増大させる共産党独裁政権の中国の現状にG7が如何に共同して対応していくか、正に問われています。                                                                                                                                                                            地政学的に見ても世界は大きな曲がり角に来たように考えます。その中で我が国は、何を覚悟し、どう対処し、進めて行くべきなのか。没後20年になりますが高坂正尭なら、どのように現状を判断するのかと、私は、ふと思いお越しました。今回、改めて掲題の著書を取り上げ、読み比べをして見ようと思った次第です。

 

 

その1 イアン・ブレマー「Gゼロ後の世界」

 

 今から9年ほど前になりますが現在の国際上の大きな変化を見通していたかのように、イアン・ブレマー博士が、主導国なき時代の勝者はだれかと、Gゼロ後の世界」を著わしました。トランプ大統領の出現は別としても、今の世界の状況を予期していたかの如き分析です。最終章の第6章で以下のように記し本書を閉じています。

 

 一方、ワシントンは、Gゼロの世界におけるアメリカのリーダーシップの限界を受け入れなければならない。アメリカ人は死活的な国益が危機にさらされる場所では、それがどこであれ、今後とも世界に深く関わらなければならない。また、アメリカのリーダーシップを求める声に応えつづけられるように、費用対効果の高い方法を探さなければならない。アメリカの先見性ある政策立案者たちが、この移行期の時代を利用して、アメリカと共通する価値観と利害の上に成り立っている伝統的な同盟国との関係を深化させると同時に、新たなパートナーや同盟国を探し出すならば、彼らは、来るべき新たな世界にとって必要不可欠な存在となる新生アメリカの構築に向けて、決定的に重要な一歩を踏み出していることだろう。(同書 245頁)

 

 尚、本書の中でアジアについて極めて重要な指摘しています。

 これからもアジアは、世界で最も不安定な地域のままであること。そして中国、インド、日本が長期に亘り良好な関係のまま共存する見込みは極めて低いこと。アジアは世界経済の成長を動かすエンジンとしての役割をいっそう強めるだろうが、この地域が安全保障上の危険性を、あまりにも多く抱え込む状況は変わりない、との指摘です。

 

 地上、海上・海中、空、宇宙、更にはサイバーに於て、急速に軍事力を強め、このコロナパンデミックに乗ずるが如く、中華大国の復権を掲げる「一体一路」を強引に進める中国共産党独裁政権の現習近平主席の登場前ではありますが、中国について興味深い記述をしております。

 

 Gゼロ世界において中国の発展が予測可能な経緯をたどる見込みは主要国の中で一番低い。インド、ブラジル、トルコは、過去10年間の成長をもたらした基本公式をそのまま使えば、あと10年は成長しつづけることができるだろう。アメリカ、ヨーロッパ、日本は、長い成功の歴史を持つ既存の経済システムに再び投資することだろう。方や、中国は、中産階級が主流となる近代的大国をめざす努力を続けるために、きわめて複雑で野心的な改革を推進しなければならない。この国の台頭は不安定、不均衡、不調和、持続可能不可能だ・・中国共産党指導部は、次の発展段階を迎える中国の舵取りをする自分たちの能力が、確実とはほど遠いものであることを承知している。(同書 188頁)

 

 加えて、アメリカのソフト・パワーもまた、かけがえにないアメリカの貴重な資産であり、標準中国語が、世界で一番人気のある第二言語として、英語にとって変わることはない。従って中国がG2になることはあり得ないとの断定です。では日本についてはどうでしょうか。以下の通りの指摘です。

 

  Gゼロは、リスクにさらされる国のコストとリスクについても高めるだろう。これは、アメリカの力と、アメリカが自国の力を同盟国防衛のために使う意思に、大きく依存する国である。数百年に及ぶ日本と中国の緊張関係は、そう簡単には緩和されることはないだろう。なぜなら、日中両国の日和見主義的な政府関係者たちが、国民を煽り立てて相手国の不信感を増長することで政治的得点を稼ぐ手法を、あまりに頻繁に使うからだ。・・しかも、個人が利用できる情報通信機器が、燎原の火のように普及したため、国民の怒りは空前のスピードで一気に高まる。しかし、日本の指導者たちは、中国が地域的影響力を拡大し続けることは知っていても、今後アメリカが、日本の利益を防衛する意思と能力を、どの程度持ち続けるかについて知る術もない。台湾も同じ懸念を抱えている。(同書 173頁)

 

 今日の現状を見て如何に思われるでしょうか。まさに日本は9年前にも、現在でも、そのような状況にあるのではないでしょうか。上掲のケント・E・カルダー著「日米同盟の静かなる危機」と共に合わせ、本書を改めて読むことをお薦めします。

 次の本投稿の主眼である、その2・三谷太一郎「戦後民主主義をどう生きるか」と「高坂正尭と戦後日本」に歩を進めます。

 

参考文献 

 

 イアン・ブレマー・北沢格訳「Gゼロの後の世界」(日本経済新聞社)

 ケント・E・カルダー 渡辺将人訳「日米同盟の静かなる危機」(ウエッジ)

 細谷雄一「国際秩序」(中公新書)、岡本隆司「中国の論理」(中公新書)

 海外事情 2016年10、11月、選択 同年12月、 他

 

 2021年6月19日

                 

                          淸宮昌章